スイス・ジュネーヴ留学日記

スイス・ジュネーヴの大学院生の留学記録。

Applied Research Project 〜体験談〜

 Bonjour,

前回の続きです!私の修士プログラムのカリキュラムに含まれているApplied Research Project (ARP) について、今回は私の経験ベースで感想など書いていきたいと思います。

ARPとは…?を説明した概要編はこちら↓

a-genevablog.hateblo.jp
 

ARP体験談

私は修士の2セメスター目、すなわち1年生の春学期にARPを行いました。ここからは時系列に沿って、ARPの詳しい内容などをまとめてみます。

第1弾にも書いた通り、近年ARPの開始時期や期間について大学院側が試行錯誤しているようで、毎年プロジェクトの実施時期や期間が変わっています。(今年は1セメスター目からプロジェクト選びなど始まっているようです。)時期やタイムスパンに関しては参考程度にしていただければ…と思います。

プロジェクトの決定

2月初旬:プロジェクトのリストが届く

まだ冬休みの真っ最中だった2月初旬に、いきなりメールでARPのプロジェクトリストが届きました。とてもページ数の多いPDFで、一つ一つのプロジェクトの詳細が載っています。内容としては、プロジェクト名・パートナー団体・目的・プロジェクトの背景・内容・どんな人がこのプロジェクトに向いているか・必要条件などが書いてありました。

必要条件があるプロジェクトは2〜3個でしたが、スペイン語が話せる人のみ、統計に詳しい人のみ、と書かれているものがありました。

 

 プロジェクト選び

約100ほどのプロジェクトの中から10個の希望プロジェクトを選びます。メールが届いてから約1〜2週間後が応募の期限だったので、かなり急ピッチで選びました。

私や友人がプロジェクトを選ぶ上で参考にしていたポイントをあげてみます。

  • 団体の種類や規模

大きい団体か小さい団体か、企業か国際機関かNGOか、などの基準で見ていました。団体の規模に関しては、国連系などの大きい団体は忙しくなかなか連絡が取れない一方、小さい団体はARPにとても協力的といいます。その一方で、大きい名の知れた団体であればCVに書いたときに名前映えしますし、小さい団体よりもARPのレポートを公式で公開してもらえて実績になる場合が多いというメリットもあるようです。

とはいえ、大きい団体の中でもいろいろなケースがありますし、小さい団体もまた然りなので、そこにこだわりすぎない方が良いのでは、と思います。

ときどき企業などprivate sectorの団体のプロジェクトもあるようなので、private sectorに興味がある人は選ぶのも良いかも知れません。

  • プロジェクトの内容

個人的にはこれがいちばん重要だと思いますし、やはりほとんどの人がいちばん重要視していたのがプロジェクトの内容でした。プロジェクトは本当に様々な種類のものがあります。MINT(私の所属する修士プログラム、Master in International and Development Studies)がカバーしている分野はほぼ全てあります。プロジェクトによって、Intersectionalなものも多いので、自分の関心に関するプロジェクトの数も必然的に多くなります。(例えばアフリカのとある国の女性のリプロダクティブ・ヘルスについてのプロジェクトはHealthとGenderの両方の分野をカバーしています。)

私の年はMINT内の各Trackごとに約10個ずつプロジェクトが分けられていましたが、自分が所属するTrackとは全く関係のないプロジェクトを選択することもできました。また、自分がどこのTrackに所属しているかが選抜に影響しているということもなさそうでした。今年からはTrackごとにプロジェクトが分けられる仕組みは撤廃されたようです。

自由に希望を出せるので、自分が興味があることや勉強していることに関するプロジェクトを選ぶ人が多い一方で、せっかくだから違う分野をやってみたいとこれまでの経歴と全く異なる内容のプロジェクトに希望を出す友人もちらほら見かけました。

  • Methodology(調査方法)

調査方法に注目する場合も多かったです。インタビューがあるプロジェクトや、統計を使うプロジェクトは特に、調査方法をしっかりと注目して選んでいる人が多いように思いました。特に統計や数学的な調査方法に関しては、必要条件として明記されていることもあり、特によく考慮されていたと思います。(統計無理だからあのプロジェクトはやめた、という人が私も含めて多くいました笑)

 

プロジェクトの希望提出

全プロジェクトの中から、Favoriteのプロジェクトを2つ、Very interestingのプロジェクトを3つ、Interestingのプロジェクトを5つ選び、Google formで提出しました。(Favorite < Very interesting < Interesting という希望度です)

私は教育系に興味があり、ちょうど教育に関するプロジェクトが2つあったのでそれはFavoriteに、あとは内容が面白そうなものやmethodologyが面白そうなもの、興味ある国際機関のものなどを中心にvery interestingとinterestingを選びました。

 

2月下旬:プロジェクトの決定

2月下旬に各チームごとにメールでどのプロジェクトにアサインされたかが届きました。チームメンバーはメールに明記されていませんが、メールのCCで確認できました。

私の年はTrackごとに結果発表のタイミングが数日ずれていたようでグループチャットがしばらく騒がしかったです笑 また、グループごとに別のメールをおそらく手作業で送っているようで、それもまた発表のタイミングのずれにつながったようです。

プロジェクトのアサインは、ほとんどの人がFavoriteもしくはVery interestingのプロジェクトに入れてもらえていました。ときどき希望でないものになってしまい、変えてもらうように交渉している人もいましたが、極々少数だったと思います。

 

2月下旬:ARP Foundation

ARPの活動の基礎やどんなことをするのかをレクチャーしてもらいます。私たちは金・土と2日間で終わりましたが、まるまる2日間座りっぱなしでずっとプレゼンを聞くのはとても辛かったことを覚えています。集中力が切れて、パソコンでメモをとるフリをしながら違うことをしている人もたくさんいたので、この形式はあまりよくないな…と思いました。

内容は、Terms of reference, Literature review, Preliminary findingsなどの提出物の説明や、パートナー団体との関わり方、チームワークについてなどがありました。特にチグループワークについての講義では、"Be kind! Respect each other!"というような内容が強調されていたのが印象的です…確かに仲間割れなどが毎年よく起きるとは噂に聞いていましたが、大学院生にもなって、しかも社会人もたくさんいるこのマスタープログラムでそんなことを言われるんだ…とちょっと呆れたのも正直なところです。

提出物やARPの流れについてのパートはそれなりに有意義だったかなと思います。

 

3月〜7月:ARP活動本格期

ARP Foundationが終わると、活動が本格的に始まります。メールでTAやパートナー団体とのミーティングのスケジュールを立てたら、とうとうARPのスタートです。この間は、ミーティングを重ねながらリサーチを行い、いくつかの締め切りに合わせてレポートを提出していくという流れです。

 

ミーティングの嵐

ARPの活動が行われている最中は、たくさんの締め切りに向けて、とにかく大量のミーティングが毎週あります。TA、Supervisor、パートナー団体、グループ内、とそれぞれのミーティングがあるのでとても忙しいです。

TA、Supervisorとは何かをここで簡単に説明しておきたいと思います。TAはPhDの学生で、プロジェクトに関してアドバイスをくれたりします。レポートの書き方やメールの書き方など小さなことでも気軽に聞くことができる様な存在です。1人のTAが3グループくらいを担当するようです。TAの上にはSupervisorと呼ばれるprofessorがいます。SupervisorはTA3人くらいをまとめていて、私たち学生とも時々ミーティングをしてチームワークはうまく行っているか、パートナー団体との連絡はうまく行っているのか、リサーチは順調に進んでいるかなどを見てくれています。

 

ミーティングの頻度は、こんな感じです。

  • パートナー団体とのミーティング:月1回

グループによって違いますが、私のところは月に1回でした。最初はパートナーの担当者が大学院に来てミーティング、その後は私たちがオフィスを訪れてミーティング、オンラインでのミーティングなどありました。基本は月に1回で進捗を報告するというものでしたが、リサーチ内容に関して急遽相談が必要になり、オンラインで短いミーティングをしたりしたことも。

  • Supervisorとのミーティング:月1回

基本的に月に1回、TAとのミーティングにSupervisorも参加してくれて、進捗状況を報告していました。私たちのグループは大きな問題は特になかったのですが、グループで仲間割れがあったりTAとの間に何か問題があったりすると、Supervisorと直接の(TAがいない)ミーティングが行われることもあるようです。

  • TAとのミーティング:週1回

これは週1回のミーティングです。「メールを送ったけど返事が来ていません」「いい文献が見つかりません」など小さなことを相談したり報告したりします。チームでお寿司パーティーをした話をしたり、なかなか自由なミーティングでした笑

私たちのTAはとてもよくサポートしてくれて、Supervisorとのミーティングにもパートナー団体とのミーティングにもほとんどの場合参加してくれていましたが、そうでない場合もあるのかもしれません。

  • チーム内のミーティング:週1回

これはチームメンバーのみでのミーティングですが、少なくとも週1回はありました。毎回TAとのミーティングの前に、聞きたいことや確認したいことをチーム内で共有する必要があったからです。

それ以外にもレポート等に関して相談があるとそれより頻繁にミーティングを行なっていました。が、基本生徒同士のミーティングなのでお昼ご飯を食べながら話したり、時には電話で済ませたりすることもある、気軽なミーティングでした。とはいえこのミーティングもスケジュールを圧迫している要因の一つことは間違いなかったです。

 

締め切りの嵐

ミーティングを重ねながら、ほぼ毎月ある何らかのレポートなどの締め切りをこなしていきました。

  • 3月中旬:Terms of reference

最初の書類は通称TORと呼ばれる、パートナー団体との契約のようなものでした。リサーチの目的、リサーチクエスチョン、調査方法、プロジェクトのタイムラインなどを書いた4-5ページの書類を提出します。テンプレートはARP Foundationの際に配られたのでそこまで内容で苦労することはありませんでした。

  • 4月下旬:Literature Review

まずは文献調査をして、それを文章にまとめて提出します。文字数は2,000 wordsくらいだったはずで、3人で分ければそこまで多くはありませんでした。

  • 6月上旬:Preliminary findings

インタビューなどの調査を行った後、その結果をまとめたものです。この締め切りまでに、大方のリサーチを終えていないといけないということになります。もちろん、この締め切り後に新しいリサーチ結果が出てきたら、Preliminary findingsに書いていなくてもfinal reportで付け足して大丈夫です。

 

ちなみに締め切りは、それなりにflexibleでした。もちろん私情で締め切りを延ばしたりはできません。けれども、グループによって進行具合は様々なので、例えばパートナー団体から返事が来なかったり、相手の都合でインタビューの日時が締め切りまでに間に合わないなどのトラブルも多くあります。そういう場合は、TAやSupervisorと相談して締め切りを特別に変えてもらうということもそこそこあるようです。

 

リサーチ

文献調査、インタビューなどをしてリサーチを進めます。私のグループは文献などの調査に加えてインタビューを行いました。インタビューに答えていただいたのはフィリピンやエジプト、ペルーの方だったので、全てオンラインでした。3人チームで、1人5つずつインタビューを行ったので、結果15件のインタビューを行ったことになります。インタビュー相手はパートナーの企業や団体がお話を伺えそうな方を1-2人見つけてくださり、そこから芋づる式に広がっていきました。インタビューをした後、それを文字起こしして、結果を分析していきます。

フィールドワークがある時もあるようですが、私たちの年は期間が短すぎてフィールドワークをする時間がなかったからか、実際にフィールドワークをしたというグループは聞いていません。ただ、一つ上の学年はARP自体が約1年かけて行われたので、トルコの難民キャンプに行った方や、エジプトで開催されたCOPに足を運んだという話を聞きました。

 

7月上旬:Final Reportの提出

今までのLiterature review, Preliminary findingsに加えて、目次やappendix, research design, objectictive, methodologyなども含めたfinal reportを提出します。グループによってはcanvaやAdobe Designなどを使ってデザインにこだわる場合も。このFinal reportをもとにARPの成績の大方が決まります。

Final Reportを提出すれば、基本的にはARPの活動はひと段落です。ただ、グループによってはパートナー団体でこのレポートを公開するために、さらにここから何回も手直しを求められる場合もあるようです。(この手直しはあくまでパートナー団体のためだけで、学校に提出したFinal Reportや成績に反映されることはありません。)

 

9月:プレゼンテーション

夏休みが明けた9月の下旬に、ARPのプレゼンテーションの日が設けられ、各グループがプレゼンを行いました。

ただ、私のグループはそれぞれ交換留学など事情があり誰もジュネーブにいないということで、7月末に別日でプレゼンをすることになりました。パートナー団体を学校に招き、Supervisorも立ち会いながらプレゼンと質疑応答が行われました。普通にプレゼンテーションの日に参加していれば、おそらく各グループ5分ほどの持ち時間にプレゼンとおそらく1-2問くらいの質問に答えて終了だったはずが、たっぷり時間があったために1時間以上も質問に応え続けることになり、かなり疲れました…笑 けれどしっかりと自分たちのプロジェクトに関してフィードバックを頂けたので、とても有意義な時間だったと思っています、大変だったけど。

 

感想など

ARPは半年でもかなり長いプロジェクトで、カリキュラム内とはいえ授業に加えてARPがあるので、かなりスケジュール的にも、体力的にも精神的にも大変でした。けれども、とても実践的な経験ができたり、他のグループメイトから学べることも多かったりと、とても良い経験だったと思います。Interdisciplinaryでpracticalなことを学べるという点が売りのMINTには必ず必要なプログラムですし、逆にこれがなければMINTの特徴は薄れてしまうなという印象を抱きました。

学校が試行錯誤しているARPの期間に関して、半年間だとインタビューなどの調査をする期間も十分ではなく、あまり濃い内容のレポートが書けなかった点が心残りでした。ARPの期間はもう少し長くしたほうがいいのではないかなぁというのが個人的な意見です。

また、私は良いチームメイトとパートナー団体に恵まれましたが、あまり良くないチームに当たってしまうとそれだけで経験の質が大幅に下がってしまうなと、色々な友達の体験談を聞く中で感じました。とはいえチームメイトは自分では選べないですし、パートナー団体がARPのパートナーとして良いか否かもプロジェクトが始まってみないとわからないので、これもまた運ですね…私のチームは全員年齢が近かった上に協調生がある人たちだったので、プロジェクト内だけでなく、アイスクリームを一緒に食べに行ったり、ディナーパーティーを一緒にしたりすることもありました。プロジェクト終了後も良い友達で、彼ら経由でさらに友達の輪が広がったりもしたので、私は本当にラッキーでしたし、良いチームメイトにあたればこういうこともありえます。

パートナー団体に関しては、私は教育技術系のスタートアップ企業とのプロジェクトでした。小さい企業だったが故に企業のかなり上のポジションの方が私たちのプレゼンを聞きにきてくださったり、LinkedInで私たちのプロジェクトを紹介してくださったり、密なコネクションができてとてもよかったです。また、彼らの次の主要プロジェクトにかなり深く関わることができて、実際に私たちのリサーチ結果を参考にしながら新プロジェクトを提供する国や地域が決まるようなので、それも良い経験だったなと思います。

ちなみに先学期はこのARPのためにものすごく忙しく目まぐるしい日々でした。私は授業4つとARPの両立でしたが、人によっては他のフルタイムのインターンシップARPをこなしている人もいました…私にはちょっと信じられないし、あまりおすすめしません笑 ARP自体がちょっとしたインターンのような面もあるので、ARPにしっかり注力して経験の質を高めるほうが良いのではないかなと思います。